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ゲーミングチェア・ディテクティブ 5

ผู้เขียน: 北園れら
last update วันที่เผยแพร่: 2026-07-07 15:10:34

「やっぱり辞めないか」と青年が言い出したのはバンに乗り込んでしばらく移動してからだった。

「今更何言ってんだよ」

「そりゃあ俺だって金無くて困ってたけどさ……でも知ってるんだ」

「何を?」

「強盗殺人で捕まったやつがどうなるか」

 多額の報酬の使い道とえも言われぬスリルへの高揚が充満した車内の温度が一気に下がった。

「知ってるか? 強盗殺人は日本で二番目に重い罪なんだ。捕まったら無期懲役か死刑しかない。俺たちは一生塀の中から出られない」

「捕まったらの話だろ。そんなの」

「捕まらなかったら? 時効まで逃げ切れば」

 口々に言うが、青年は白髪を掻いて一蹴した。

「殺人に時効はない。それに、今は指名手配犯がネットに晒される時代だぞ。一生捕まらないなんてことはまずあり得ない」

「……」

 全員が目出し帽を被っていた。目出し帽の中で自分だけが知っている自分の顔写真が世界中に拡散されるのを想像した。

「……お、俺さ」

 最初に口を開いたのは運転手だった。

「俺ほんとは雇われなんだ。お前らと同じバイト受けて、この車渡されて送迎の仕事任された」

「おいお前……」

「だ、だから」

「だから?」

「こ……このまま逃げちゃ駄目かな」

 運転役一人、実行犯三人。二対二だ。多数決が拮抗してしまえば「みんながやると言ったから」が通用しなくなる。

「逃げよう。やっぱりやっちゃ駄目だよこんな」

「……なんか俺も怖くなってきた」

「いやいや、馬鹿かお前ら」

 唯一反対していたのは皆の身分証を集めていた〈監査役〉と名乗る男だった。

「何の冗談だ。お前ら状況わかってんのか?」

「状況わかってないのはあなたじゃないか」

「……あ?」

「実行役がいないと強盗《タタキ》は成立しない。人手不足に困ってたから闇バイト呼んだんでしょ?」

「それは……いや、別にお前らじゃなくても」

「まあまあまあ。そうだ、この辺りにいい喫茶店があるんですよ。お話ならそこで聞きますから」

 青年は口車に乗せたかと思えば「その信号過ぎたところで左折ね」と運転手に指示まで始めた。

 看板娘が欠伸しながら突っ立っている喫茶ケチャップの前で、バンのスライドドアが開いた。

「はい降りて降りて」

「てめえ、何を。いい加減に」

「よし花火、今や」

 ぞろぞろと降りてきた闇バイトをかき分け、黒髪ショートボブの看板娘が監査役の男の胸に飛び込んだかと思えば顎に掌底を叩き込み、ふらついた胴体に回し蹴りを加えてバンの後部座席クッションにぶち込んだ。

「……え?」

「はーい、じゃあお二人はうちの喫茶店にどうぞ。こっちの人はわたしとマスターとお話し・・・するんで、しばらくお待ちくださーい」

「ほな喫茶ケチャップをよろしくお願いします」

 青年は丁寧な標準語から関西弁に切り替え、軽い調子で店の中に闇バイトたちを放り込んだ。

 喫茶ケチャップの薄暗い店内はカウンターに長身の女性が一人で煙草を燻らせているだけで、やがてドアベルの音に反応して彼女が振り向いた。

「──いらっしゃい。悪いが水はセルフサービスだ、動きたくないからね」

 ────────────────────

 殺し屋ライセンスをめぐる事件を追う上で、喫茶ケチャップ……もとい〈錠ヶ崎探偵社〉の三人組は二つのルールを設けた。

「このクソダサい名前はなんですか?」

「喫茶店名義で暴れるわけにもいかないだろ」

「わたしはいつ灘子さんの傘下に入ったわけ」

「豹虎くんのボスが私だから、自然と」

 一つ、役割を分担すること。

 拠点となる店には灘子が残り、行動方針や作戦の立案を行うのが基本形。実行犯……もとい実働班には花火と豹虎。動ける方と機転が効く方だ。

 もう一つ、自分の命を最優先とすること。

 三人はそれぞれ足りないものを補い合っている関係だ。だから欠員はあり得ないし、そうなった時点で花火の殺し屋人生も豹虎の命も保証できない。自分の命の責任は自分で取れ。そう決めたのは他でもない豹虎だった。

「俺はお前を信用しとる。せやけどもしもの時は花火の意思で俺を見捨てろ」

「……俺を置いて死ぬなってやつ? なんで」

「なんでもや。まあ、お前はいつでも俺との約束を不義理にしていいってことだけ覚えてくれ」

 花火は「はい」とも「うん」とも取れない曖昧な返事をして、それから豹虎は短期バイトアプリを通して闇バイトに応募した。運び屋の少年の足取りを掴むヒントを得るため闇バイトの現場に潜入する。それが灘子と考えた新しい作戦だった。

「さて」

「お……お前ら……騙したな」

「俺は嘘なんか一つも言ってないで? 金には困っとるし強盗殺人なんてやりたくもない。それに話し合いがしたいのも事実やんか」

 屁理屈に花火はちょっと噴き出した。

 そして豹虎はいざという時に躊躇がないことに気がつき、何となく安心した。お人よしや潔癖とポリシーは分けて扱うべきだ。

 安っぽいバックシートに男を仰向けに寝かせてシャツの胸ぐらを掴んで跨る。マウントポジションは圧倒的な形勢の不利を思い知らせる手段だ。

 実行役は豹虎で花火は監修。実際の力の差と関係なくこういうのはデカくてイカつい男にやらせた方が様になる。

「バックに付いとるんは誰や。どこの組織や」

「し……知らねえ」

「とぼけんな。手の内くらいわかるわ」

「本当に知らねえんだよ。トクリュウなんてどこもそんなもんだ」

 匿名流動型犯罪グループ。〈トクリュウ〉と呼ばれる形態の最大の特徴は実体がない・・・・・ことだ。極道のように強固な繋がりのある組織ではなく、顔も知らない相手とインターネットを通して連絡を取り合い犯罪を実行する。闇バイトは〈トクリュウ〉の末端も末端で、使い捨ての駒でしかない。

「ねえ、だったら指示役は?」

「誰がお前らなんかに」

「……マスター、今から言う通りにして」

 だからこんなのに構ってる暇はない。

「そう、いい感じ」

「いぎぎぎぎぎ……!?」

「手前に引っ張ったら勝手に折れるから」

「へー、てこの原理ってこない便利なもんかいな。俺文系やったけど社会人になってから初めて勉強しとけば良かったって思ったわ」

「わかった! わかったよやめ、やめて!?」

 元殺し屋と元ヤクザが顔を合わせて行う拷問に耐えかねた男は目出し帽の内側を涎と涙で濡らしながらわざとらしい声で叫んだ。

「指示役とは直接会ったことも顔を見たこともねえ! 俺はネットで知り合ってこの役任されただけだ、信じてくれよ!」

「ほーそうかそうか。ならもう一つ聞きたい」

「だったら離せよ、息が」

「お前〈シータ〉の人間やろ」

 叫び声が止んだ。

 怒鳴りも泣きもしない完全な沈黙。

「なんや、やっぱりそういうことか」

「マスター……?」

「せやろなあ。はいそうですって言ったら、お前殺されてまうよなあ」

 男を黙らせたのは他でもない豹虎の冷たい目だった。

「よーくわかった。花火、こいつからこれ以上引き出せるもんはない。身分証返してもろてさっさとお家に帰らせてあげよか」

「いいの?」

「おう、ええで。せやけど今から灘子と色々話さなあかんわ。相当まずいことになってるから」

 豹虎に質問を重ねようとしたところで花火のスマホが鳴った。花火の電話番号を知っているのは組合の人間と、

「もしもし、花火さん? 俺です」

 数少ない気の知れた友人だけだった。

「美鶴?」

「はい。少し気になることがあって」

「気になること」

「こないだうちに依頼してくれた生存者《ゾンビ》のことなんですけど」

 掃除屋界隈では管理を任されている生きた人間のことをゾンビと呼んでいる。ゾンビたちは港湾地区にある死体処理工場に送られることなく、お抱えの闇医者のもとで生存に必要な最低側の治療を施されて野に放たれる。その際に担当者からきついおしおき・・・・が加えられるため再犯率はかなり低い。というか、再犯ができる身体で帰らせない。

「ドレッドと襟足だよね? それがどうかした」

「二人とも死体で見つかりました」

「……は?」

 ゾンビが殺されるとしたら第三者によって粛清《・・》されたことに他ならない。

「一応、死体の担当者は俺です。守秘義務ってかルール守らないとこっちの命が危ないんすけど」

「わかった。言えることだけでいいから教えて」

「そのつもりです。ご遺体は散々っすね。焼死体です。生体反応あるんで、多分生きたまま黒焦げにされてます。魔女の火炙り的な?」

 ドレッドは凶悪かつ日本人離れした体格の持ち主だった。それが生きたまま丸焼きにされて殺されるなんて芸当、普通ならあり得ない。暴力団や半グレによる組織的な殺人か、あるいは。

「……なんか変なんすよね」

「何が?」

「普通焼き殺すならガソリンぶっ掛けてライターで火ぃつけるのが定番なんですよ」

「知りたくなかったそんな定番」

「でもこれ、多分ガスの火で死んでます。金属とか溶かせる温度の。全身バラバラのサイコロステーキになってて断面の酷さがダンチっす」

 ガス。

 その言葉で花火は心当たりが一つ浮かんだ。

 そしてそれが正しいのなら、かなりまずい。

「花火さん?」

「知ってる。その流儀《ポリシー》」

 神奈川県姉崎市は殺し屋大国だ。

「殺し屋の仕業だ」

 だから花火たちの敵は自然と、殺し屋になる。

 Ⅱ.『享楽的安楽椅子探偵ゲーミングチェアディテクティブ

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